タイ伝統医学には4つの分野がある。薬草医学、栄養医学、精神的修養、タイマッサージである。
タイマサージ(タイ語でヌアッペーンボーラン)「古代の聖なる治療法」と名付けられていることからそれが古代より幾世代にも渡って継承されてきた一連の教えに由来していることが分かる。また、現代のタイ国民や仏教僧にとっても、仏教の経典や教義と同じくらいの権威を保っている。
タイ医学の伝説上、歴史上の創始者は「シワカコマラパット」というインド生まれの人である。彼は歴史上の偉大な聖人、仏陀と親しい間柄だったことが分かっている。
また、仏陀を中心に形成された最初の仏教僧集団の筆頭医師だった。従って彼は約2500年前、インドで生きていたということが分かる。
仏教僧がインドからタイに移ってきたことに伴い、医学がタイに導入された。導入された正確な年は論議の的となっているが歴史研究家は紀元前2世紀だと考えている。これまでに分かっているのはラーマカムヘン王の治世(1275~1317年)に小乗仏教の一派テラワーダ(上座部)仏教が王国の国教とされた。面白いことに「仏教を国教と定める」との宣言が記された1292年の石碑がタイでは文字で記された最古の記録として知られている。
19世紀半ば以前のタイで歴史上医学がいかにして発達したのかについては上記以外のことはほとんど知られていない。
何世紀にも渡って伝統的医学知識は口頭で医師から弟子へと伝えられた。仏教の経典(スートラ)が口頭で伝えられたのと同じである。肉体的疾患であろうとまた、情緒的疾患であろうとまた、精神的疾患であろうとタイの人々が常に治療に通ってた場所はワットと呼ばれる寺院である。
現代の医学は、仏教徒のコミュニティーで僧や尼僧が行っていた病気治療を通して発達したものである。ヤシの葉に記された17世紀の医学記録に、ヌアッドに関する記述がある。医学書は最重要書物とされ、仏教の経典と同様の敬意が払われた。古い医学書の多くは、旧王朝の首都アユタヤに保存されていた。1767年、アユタヤは北方から襲来したビルマ軍に侵略され、破壊された。その時に重要な伝統医学書もほとんど失われた。その上、タイ国民のとって重要な宗教教義、霊的教義、政府公式記録のほとんども失われた。
タイ古代医学書については、すでに1685年、シモーヌ・ド・ラ・ルーベルが言及している。ルーベルは、フランス王ルイ14世の宮廷から、アユタヤのシャム宮廷に派遣されていた大使館職員の一人だった。
1832年、シャムの王ラマ3世は、バンコクのプラ・チェトウフォン王立寺院(現在では一般にワット・ポー〔WatPho〕として知られている)の僧たちに、わずかに残った古代医学書に記された医学知識を石に刻むよう命じた。これら歴史的に重要な石碑は、ワット・ポーの敷地内の医学展示館の壁にはめ込まれており、今でも人々が目にすることができる。石碑には人体のエネルギー経路が描かれている。これらのエネルギー経路(タイ医学ではセン〔Sen〕と呼ばれている)上にある治療のポイント(ツボ)を基にした治療法も、注釈として付いている。ワット・ポーには、体の前面・後面を描いた石碑がそれぞれ30個、合わせて60個ある。これらの石碑は、タイ医学における重要で歴史的な財産であり、現代の首都での、最も重要な王立寺院におけるこれらの石碑の存在は、伝統医学がタイ王室とテラワーダ仏教界の両方によって守られ、崇敬されてきたことを示している。
最近の数年間、タイでは、タイ伝統医学の価値を再認識し、大切に擁護しようとする気運が一段と強まった。タイ伝統医学に対して外国の人々が関心を持ったことも、タイ伝統医学が再び勢いを盛り返した一因である。現在のタイ王朝も伝統医学を熱心に擁護している。皇太子は、ガン患者とエイズ感染者の治療における、タイ独自の薬草研究のための財団を設立した。また、「タイ式マッサージ復興:The Revitalization of Thai Massage 」と呼ばれる団体も、伝統的マッサージ・テクニックのさらなる研究と治療と適用性を向上させるために設立された。

タイとインドの関係は深く、バンコクにはインド人街があるほどです。タイ古式マッサージも又インドのアーユルヴェーダの影響を強く受けています。アーユルヴェーダが宇宙の構成要素を5つ(空・風・火・水・土)に分けているのに対し、タイ伝統医学では(土、水、風、火)の4つに分類しています。そして宇宙と人間の体はそれぞれが分離しているわけではなく、相対関係にあるという認識に立っているので、人体もまた4要素で成り立っていると考えています。

「土」は体の20器官を構成し、「水」は体内を流れる12の液体を作り出し、「風」は体の6つの動きを織り成し、そして「火」は体の4つの熱を生成すると考えられています。

「土」が構成する20の器官
髪、毛、爪、歯、皮膚、筋肉、靭帯、骨、骨髄、脾臓、心臓、肝臓、筋膜、腎臓、肺臓、大腸、小腸
新しく食べた物、古い食べ物、脳、脊髄

「水」が構成する12の液体
血液、汗、胆汁、痰、膿、涙、リンパ液、脂肪、唾液、尿、鼻水、滑液

「風」が構成する6つの動作
頭から足への動き、足から頭への動き、腹の中の動き、胃や腸の中の動き、血液の動き、呼吸の動き

「火」が構成する4つの熱
体温、高熱、老化、消